2016年10月30日日曜日

読者は辞書をもたなければならない。

KDPの2016年8月は、KU/KOL(読み放題の配当金)が売上(実売)を上回った。しかし、全体に「売上が伸びた」のではない。明らかに落ちた。ただ、「読者」が広がったことは確かだ。数字でも確認できるので間違いない(そもそも、古書でしか読めない作家の作品を電子化して、新たな読者に伝えていくというのが、私たちのプロジェクトの発端ではあるのだが)。
 
9月には「選集」発売の情報が報じられ、その効果で売上(実売)が明らかに増えている。が、KU/KOL(読み放題の配当金)も前月同様に多い。実際の配当額が確定するのは11月15日だっけ? 10月も今のところ9月と同様の推移をしている。
 
そこを確認してからの判断になるが、やはり定価を下げたほうが利益が出るのか? 今年4月に著者の誕生日に合わせて1週間限定のタイムセールをやったら、たしかに売上は良かったし……。ただ、タイムセールだから売れただけだろうし……。
 
先日、突然、会社を辞めて周囲の人たちを驚かせたイトヒヤ先輩と話していて「電子書籍は安すぎる。印刷版より便利なら、それより高いものがあってもいい」と仰っていて、まあ、たしかにそれはそうだが、市場はそうは反応してくれない(まだ印刷版のほうが便利だという認識なのだろう)。個人的には、本の内容によっては印刷版より電子版が優れているもんもあると思っている。特に、「調べ物」を多用して読んだほうが理解が促進される本などは、本当に便利だ。
 
こんな話がある――。ウラジーミル・ナボコフの『ヨーロッパ文学講義』の冒頭に「読者が良き読者になるためには、どうあるべきか、答えを四つ選びなさい」という設問があるのだが……。
 
1:読者は読書クラブに属すべきである。
2:読者はその性別にしたがって、男主人公ないし女主人公と一体にならなければならない。
3:読者は社会・経済的観点に注意を集中すべきである。
4 読者は筋や会話のある物語のほうを、ないものより好むべきである。
5:読者は小説を映画で見ておくべきである。
6:読者は作家の卵でなければならない。
7:読者は想像力をもたなければならない。
8:読者は記憶力をもたなければならない。
9:読者は辞書をもたなければならない。
10:読者はなんらかの芸術的センスをもっていなければならない。
 
当然、答えは「7、8、9、10」で、なかでも9の「読者は辞書をもたなければならない」という面倒臭さが電書によって軽減されたのは本当に大きいと思う。
 
話を戻す――。ただ、ショバ代が販売価格の30%という安さのKindleセレクトをやめるという選択肢は、私にはない。たしかに電書市場の寡占化の要因にはなるが、小売りが65%もの販売手数料を抜くなんてのは暴利だと思う。
 
さてさて、どうしたらいいか……。
 
実は同様の境遇の電書パブリッシャーって、それほど多くない。
 
ちょうど昨日でまる3年、電書復刊ビジネスをやってきたが、「同様の境遇の電書パブリッシャー」があまりいないということは、私たちのやっていることが「労多くして実りなし」だと思われているからではないか――。
 
もしそう思われているのであれば、私たちがやっていることは「悪しき前例」になってしまうわけで、それには責任を感じてしまう。
 
正直、篦棒には儲かってはいないが、電書復刊が密かなブーム&再評価の呼び水となって「選集」が出ることになり、電書の売上にもその影響が現れ始めているわけだし、また、その「選集」が出るからこそ「つかだま書房」の企画も成立するわけで。数字には現れないい「利益」は、たしかにあったのだ今は思っている。

0 件のコメント:

コメントを投稿